「愚行録」←超ネタバレ

この映画。はじまりは「一家惨殺事件」です。犯人は捕まっていない。理想を絵に描いたようなエリート家庭(夫妻+幼い娘)を惨殺した犯人は誰なのかというのが縦軸。横軸にはこの夫妻をとりまく人間関係が絡み合っていました。
殺された一家のことを記事にするために証言を聞いてまわる週刊誌の記者・田中を妻夫木聡さんが演じていました。表情のない沈鬱な男で、登場シーンからしてちょっと不気味。だけど、そのシーンでこの男の性質のようなものがわかるようになってます。

以下、ネタバレ。

登場シーンでこの田中はバスの中にいて、高圧的なおっさんから「席を譲りなさい」といわれて面倒そうに席をたつんですが、そのとき片足をひきずって数歩いったあとによろめいて倒れるんです。譲れといったおっさんは、バツの悪そうな顔をします。実際どんな理由で席に座っているか想像もしないで「若いから」という理由だけで高圧的にえらそーにいうおっさん(おばさんもいるかな?)っているので、ああ、こんなふうにできたらスカッとするよなぁと思ってしまいました。けど、巧妙な演技です。
無表情です。にこりとも笑わなければ、イライラもしない。淡々としています。
この映画の雰囲気そのものです。
つまらなそうにしながらも精力的に関係者に会い、殺された一家のことを探る田中。そのたびに挟みこまれる回想。理想とされる一家というか夫妻の、真実の姿が浮き彫りになっていく。結論として、このふたりは似たもの夫婦で、コレ以上にないほどの良縁で結ばれたふたりだったんだなと結論づけるしかなくなります。上昇志向が強く、そのためなら何を踏み台にしてもいいと思っているとこも同じだし、それによって相手がどう感じようが関係ないと思ってるとこも同じ。人の痛みがわからない同士。しかもそんな自分をまったく恥じてないところもいっしょです。かといって無惨に殺されていいわけではありませんが、このふたりは人に恨まれていてもしょうがない生き方をしてきてはいるのです(人の心を踏みにじってきたという一点において)
ただ、冒頭のバスのシーンも、ですけど。
善良そうに見える人間がふりかざす正義のようなもの、優越感のようなもの、上から下へ振り下ろす暴力のようなものに従わざるをえない立場にあるものの狡猾さというか、したたかさを感じさせられるお話しでした。田中の妹を満島ひかりが演じていたんですが、薄幸であるがゆえにいろんな感情が麻痺しているような薄っぺらい感じが不気味であり、透明であり、純粋にも感じられる。おとなになることのできなかった小さなこどものままの女。そんな妹をほんとの意味では救えなかった兄。
そんな兄妹の父親も母親も、この物語にまともな人間はいないのか?というくらい極端な人間ばかりでした。でも誰もが陥る可能性のある愚行なのかもしれない。性的虐待をしていた父親。その父を殴ってくれたというだけで兄をヒーローのように慕う妹。その妹は、セレブと庶民というヒエラルキーが幅を利かせている大学に進学したがために徹底的に利用されつくされてしまう。父親から虐待を受けていたからか自己評価が低いうえに自分の体を切り売りすることに抵抗がない(というわけじゃないけど) 強い力に屈しやすい妹は、男に提供される贄になる。妹を利用したのは、一家惨殺事件の被害者のひとり(妻)だった。
妹はどこか狂気をおびているから、無邪気に殺人もしてしまいそうな感じがする。けれど、惨殺事件は女ひとりではとてもできそうにない。では共犯者がいたのか。単独犯だ。というような推理じみたシーンもあるんですけど、妹を侮辱された兄はいともあっさり証言者のひとりを殺すのです。そこでハジメテ、あれ、この人、こういう男だったのか…とびっくりするのですよ。
自覚のない愚行と、自覚のある愚行。
そんな対比もあったのかなと、あとで思いました。
たとえば、妹がひとりで産んだ娘の父親は誰なのか。性的虐待をしていた実父なのか。……と、思ったら、おそらく兄がその相手なのだと、ラストまぎわでわかったりもする。ここまで見事に「いい人」がいないと、いっそあっぱれだなと、
そんな映画でした。

小出恵介さんは惨殺事件の被害者を演じていました。とくに爽やかな役柄ではなかったです。自分の欲望を叶えるためなら何をしても許されると思ってるような人間でした。いっしょに殺された妻も似たり寄ったりだったので、とても似合いの夫婦でしたよ。人の気持ちがわからないのに妙に男気がある感じで憎まれにくいというそんな役柄でした。うまかったです。この映画が上映中止になってしまって残念ですが、たぶんDVDレンタルにはでると思うので気になった方はみてください。
ネタバレ読んじゃってから見るのも、またよいと思いますー。

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